インタビュー第二弾:帰国子女夫婦が感じたカナダの「個を育てる」教育

前回の柴田さんご家族へのインタビューに続いて、今回もインタビュー特別編。今回はThe Japan Foundation Toronto (国際交流基金トロント日本文化センター)所長の武井優子さんとご主人の康至さんに、カナダの教育について伺いしました。ご夫妻ともに帰国子女であり、カナダという多民族国家でグレード3(日本の小学3年生に相当)の息子さんが、どのような教育を受けているのか、国際経験溢れるご夫妻の教育方針は何なのかについて語って頂きました。

ドイツ、スイス、そして日本。帰国子女として経験で学んだことは?

(久保・塩原)お二人とも子ども時代は海外で育った帰国子女だそうですね。

(優子さん)私は父の仕事の関係で2歳の時に、ドイツのミュンヘンに行き、そこで幼稚園から小学校4年生まで過ごしました。その後スイスに移り、小学校5年と6年を過ごして日本に帰国しました。中学の3年間と高校の1年間を日本で過ごしましたが、父の転勤で今度はドイツのフランクフルトに移り、高校2年と3年はインターナショナルスクールに通っていました。そこでIB(国際バカロレア)を取得し、日本の大学に進学しました。

(久保・塩原)幼少期からドイツ語、日本語、英語、フランス語に触れてきたと思いますが、言語発達の点で良かったことなどあれば教えてください。

(優子さん)当時2歳だったということもあり、ドイツの幼稚園に入りました。小さい子は半年間ほど何にも喋らない期間があるらしいのですが、私も同じで、半年ほど経過した後に言葉が出てくるようになり、自然な流れで喋れるようになったので、ドイツ語の勉強で特に苦労した覚えはありません。

逆に両親が意識していたのは日本語をどう学び、そして使うかということでした。当時は日本人もあまり周りにもいなかったので、我々の親世代が日本語補習校を立ち上げ、そこに毎週土曜日通学し、さらに通信教育もやっていました。家の中でもドイツ語禁止で、私がドイツ語を話しても一切応じてもらえないほど自宅では徹底して日本語の環境に置かれていました。

英語は、日本に帰って中学校で初めてきちんと勉強しましたが、ドイツにいる時のほうが日本にいるよりも、多少は触れる機会が多かったと思います。高校2年と3年にインターナショナルスクールに通った時が一番英語が身についた時期だと思います。

(久保・塩原)ドイツ人の方は英語がとても上手な印象があるのですが・・・

(優子さん)ドイツでは進路を決定するタイミングがとても早く、当時の話ですが、大学進学コースに進む子ども達は小学5年生から英語を勉強しはじめています。

(久保・塩原)ご主人も帰国子女だと伺いましたが。

(康至さん)私は5歳の時、父の転勤でスイスのチューリッヒに引っ越し、小学校5年生まで現地のインターナショナルスクールに通いました。その後、東京に戻ったのですが、中学卒業後に、またチューリッヒに引っ越すことになり、高校3年間を過ごしました。大学進学に伴い、日本に帰国し大学4年間過ごしました。

日本に帰国。逆カルチャーショックは?

(久保・塩原)多感な時期に海外から日本に帰国するなど、言語面や生活面などでご苦労はありましたか?

(優子さん)父の国内転勤で3つの中学校を経験したのですが、特に友人関係で苦労し、長くそのことについて考えることが多かったです。最初の学校は公立の中学校で帰国子女もいなく、とにかく私は目立ってしまいました。海外では普通だった授業中に手を上げたり、学級委員に立候補したりなど積極性が強くて、1年生なのに他の学年の生徒にも知られていて居心地が悪かったですね。

別の学校では帰国子女のクラスがあったので期待してみたら、周囲はアメリカからの帰国組ばかりでドイツから帰国した私は差別や疎外感を感じることが多々あり、仲間外れにされることに対しても、こういう目にあうのは全部自分が悪いと思いネガティブになってしまって、そこから抜け出すまでに時間がかかりました。

(康至さん)私もちょうど日本語補習校が立ち上がった時期で、チューリッヒの場合は水曜日の放課後と土曜日の半日の2日間で主に国語を勉強し、通信教育を受けて、家では必ず日本語を話すことが決まりでした。なので、日本に戻った時でも言葉の面では不自由はありませんでした。

(久保・塩原)漢字などは苦労されませんでしたか?

(康至さん)多少は苦労したのですが、全然できなかったわけではなかったので大丈夫でした。それよりも一番苦労したのは社会と理科ですね。スイスの学校では習わなかったので追いつくのが大変でした。

(久保・塩原)生活面やカルチャーショックなどは?

(康至さん)私の場合は、日本で学校に通っていた時も多くの友人たちに恵まれて、とても楽しい思い出ばかりだったので、落ち込むということもなかったです。

(久保・塩原)海外生活が長いお二人が、日本の大学に進学された理由は何でしょうか?

(優子さん)幼少期に海外にいたのでもっと日本を知りたいという興味がありました。

(康至さん)私も日本をもっと知りたいということと、中学時代が楽しかったので日本に戻りたいという気持ちがありました。

生徒個々に対応した授業を実施してくれるカナダの小学校

(久保・塩原)息子さんの通っている学校について教えてください。

(優子さん)規模はそれほど大きくはないとは思いますが、ミドルスクールまであるいわゆる小中一貫校です。1クラスおよそ25人程度いて、1学年は2クラスほどです。

人種的にも偏っていることはなく、白人層が50パーセントくらいで、あとはインド、ベトナムや中国、韓国などのアジア人が占めています。日本人は2、3人程度だと思います。

(久保・塩原)息子さんの学校生活について良いと感じるところや違和感を感じるところがあれば教えてください。

(優子さん)カナダの教育環境の良いと思うところは、個人の長所を伸ばそうとしてくれる点と、個々の成長度合に合わせた教育が受けられるところだと思います。息子はグレート3と4の合同クラスですが、1年半前に来たばかりで、英語のレベルがグレード3の国語の授業についていくのが難しいので、先生が息子のレベルにあったタスクを与えてくれます。逆に算数はできるので4年生の課題を与えてくれたりします。

(久保・塩原)それは他の生徒さんとは別に先生から指示されるのですか?

(優子さん)そうです。先生がとても技量のある方で25人みんながそれぞれの課題に取り組んでいます。例えば同じテーマを扱うとしても3年生のレベルにあったものと4年生のレベルにあったもので分かれていたりします。ほかにも、自分の文化のお正月についてプレゼンテーションしてくださいという宿題では、息子は紙芝居を作り説明をしたのですが、全体的に、覚えるというよりは考える宿題が多いのが良いと思いますね。

(久保・塩原)ちなみに授業方針や教育環境に物足りなさを感じることはないですか?

(康至さん)感じたことはないですね。私たちが想像していたこと以上のことやってくれているのでありがたく思っています。

点数よりも学習態度が重要!

(優子さん)ある時先生が息子にわざわざお褒めのカードをくれたことがありました。手書きで書かれたカードを読んだ時に先生の子どもたちに対する姿勢が伝わってきてとても嬉しかったです。

息子は英語がまだまだ追いついていないので、テストの点数などではハンデがある点が否めないのですが、先生は教科の点数評価よりも一生続く学習態度の方が大事だとおっしゃっていて、そういう観点で子供に携わってくれるところに感謝しています。

(久保・塩原)お二人の経験からこのようなことはヨーロッパでもありますか?それともカナダらしい文化なのでしょうか?

(優子さん)カナダらしい感じはしますね。ドイツでも何かができたら表彰状みたいなものを貰ってくることはありましたが、個人的に先生から手紙をもらうことはなかったと思います。

英語力向上のためにやっていることは?

(久保・塩原)息子さんの英語力をあげるために何か取り組まれている事はありますか?

(優子さん)英語の本を読み聞かせすることや、テレビの子供番組を観るようにしていますね。特にテレビはヒヤリング力の向上に役立っていると思います。

(久保・塩原)日本語の勉強は補習校と通信教育とのことですが、心配はないですか?

(優子さん)私自身、日本の小学校に1日も通ってないのについていけたのは補習校と通信教育、家庭での日本語環境のおかげだと思ったので同じようにしています。

(康至さん)いまはYouTubeとかで様々な日本の情報が観ることができるので、私達の時代よりは、日本に戻っても、逆カルチャーショックは受けないと思います。

家庭ではネガティブな会話は一切なし!

(久保・塩原)息子さんが自己肯定感を持つことに対して意識してやっていることはありますか?

(優子さん)ポジティブな声がけです。我が家の会話では否定的な言葉は使わないようにして、「ありがとう」「素晴らしい」といった明るい前向きな言葉をよく使いますね。子供が小さい時も赤ちゃん言葉を使ったことがないです。普通に対等に扱っているので、小さい頃から自分で考えて行動することができます。

(久保・塩原)注意をする時はどうされるのですか?

(優子さん)片付けて欲しい時は「片付けなさい!」と叱るのではなく、「なんか出ているよ?」とか「これで良いんだっけ?」などと、言い方に工夫するようにしています。

(久保・塩原)息子さんに対して期待している将来像はありますか?

(優子さん)世界中のどこにいても逞しく自分らしくいて欲しいですね。自分の好きなことや得意な事が揺るがない軸を持って欲しいです。

日本文化をカナダで発信。武井優子さんのお仕事

(久保・塩原)優子さんの国際交流基金(Japan Foundation)でのお仕事について教えてください。

(優子さん)国際交流基金は国際文化交流を専門に行う機関です。ここでは文化、芸術、日本語教育、日本研究、知的交流で幅広く日本文化の交流と紹介を行っています。

カナダ人は日本の何が好き?

(久保・塩原)カナダ人は日本文化のどういうところに興味があるのでしょうか?

(優子さん)若い人たちはマンガやゲームから日本への興味を深める方が多い傾向があると思います。大学の日本語コースも先生が足りなくなるくらい人気だと伺っています。また、日本の伝統芸能にも関心を持っている人も多いですね。自分の持っている文化と違うものに惹かれてくる方もいれば、家族や友人関係など、自分と近いものへの共感を求めてくる方もいるので、なるべく幅広く紹介することを心掛けています。

(久保・塩原)日本の教育を他国と比べた時に特徴的なことはありますか?

(優子さん)変わりつつあるかもしれませんが、個人よりも集団を重んじるというのが日本の特徴だと思います。それによって他人への思いやりや気遣いや、グループとしての効率性みたいなところを私たちは訓練されて来て、個人個人を伸ばすというよりはみな同じレベルにしていくということが中心だと思います。

(久保・塩原)仕事を通じて子どもたちに託したいことは何かありますか?

(優子さん)国際交流は人と人との繋がりなので、一人一人が視野を広く持って自分と異なるものや多様なものに対してオープンでいること、そして自分自身を受け入れる心を持つ人が増えればいいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

Osamu Shiohara

大学卒業後、東京で人材・広告系の企業に3年間勤め、2003年から2010年までオーストラリア・シドニーに在住し、出版社でビジネスマネージャーを務めた後、オーストラリアで多岐に渡るフードビジネスを展開する企業の経営管理・新規事業責任者として転職。